少女、解体
その男はあまりにも眩しく、その光はわたしの全てを焼き尽くすだろう。
その前に、わたしには、やらなくてはならないことがある。
―――
久しぶりに再会した彼は、彼の国の風を受け、すっかり太陽のような男になっていた。
彼は、わたしを初恋の女だと言って微笑んだ。
彼が奏でるような手付きでわたしに触れる、
泡立つ温度と汗ばむ肌に苛立ちを覚える、
ああ、これ以上笑わないで、泣いてください。
ああ、そんなふうに泣かないで。好きよ。触らないで。
別れのキスをして、家に帰っても、まだ、あの男がいる。
上着から、髪から、あの男の匂いがするのだ。
懐かしい、甘い匂い。
今夜はこの匂いを抱いたまま、シャワーなんて浴びずに眠ってしまおう。
毛布に包まって己を抱いた、
彼の匂いを抱いた、泣いた、
ああ。
なぜわたしは、あの時あの男を殺してしまわなかったのだろう。
彼が男になる前に、殺してしまえば。
あの手が、わたし以外の誰かを奏でることなど、決してなかったのに。
流した涙に溶けてゆくように、深い眠りに就いた。
―――
突如として下腹部に焼けるような激しい痛みが走り、わたしは飛び起きた。しかし、実際には身体は動かなかった。
脂汗が滲み、助けを呼ぼうと叫んだはずの声はひくひくと喉でつかえて、か細い呻きに変わって消えた。
この身に何が起きたのか、考えようにも、絶え間なく襲い続ける激痛の波にのまれて意識を失いそうになる。
鉛のように重たい瞼をやっとの思いで薄く開けると、医師や看護師の姿が見えた。
はるか遠くで、輸血の準備を、と聞こえた瞬間、意識は果てしない深淵へと吸い込まれていった。
―――
目が覚めると、そこは病室だった。
天井が白い。天井から続く壁も、白い。
何もかも白い世界。
白くて、白くて、五月蝿いな。
ふと、自分以外の生き物の気配を感じて、そちらを見る。
そこには、生まれたばかりの、小さな小さな赤子がいた。
ああ、
これはさっきまで、わたしの、子宮に、在ったものだ。
確かに、わたしの中に、在ったのだ。
それなのに。
やっとの思いで上半身を起こして、赤子に手を伸ばす。
赤子を包んだ布を引っ張ってこちら側に手繰り寄せ、赤子の胴体を掴み、ゆっくりと持ち上げて腕に抱いた。
赤子は声も出さずに、じっとこちらを見つめていた。
そして、わたしの頬に、
小さな右手を伸ばした。
やっぱりか。
わたしは、伸ばされた小さな手を掴むと、持ちうる限りの力を込めて反対側に捻り、引きちぎった。
赤子は声も出さず、ただ静かに、じっとこちらを見つめている。
わたしは赤子の右腕を食べた。
約束通りに食べた。
そのあと、左腕を引き千切って食べた。
右脚も、左脚も、内臓も食べた。
最後に柔らかな瞳を見つめ、小さな唇にキスをして、首を一口で食べた。
その瞬間、懐かしい、甘い匂いがした。
ああ、あれは、
わたしの羊水の匂いだったのね。